東京医科歯科大学卒業後、医学部付属病院(現東京医科歯科大学病院)に勤務。同大学保健衛生学研究科5年一貫制博士課程に進学。2023年4月より現職。
私が看護学という進路を選択し、臨床経験を経て、現在の看護基礎教育および研究に至るまでについて、主に高校生の皆さんに向けて、ご紹介させていただきます。
私は、幼いころから看護に携わりたいという夢を持っており、高校での進路選択では他の医療系学部も含めて真剣に悩んだ結果、看護学を選択しました。理由は幾つかありましたが、人(患者)と向き合い、看護ならではの方法でより良い方向へ導くことができる、ということが決め手になりました。また、現場だけではなく、その方法を突き詰めるために、大学・大学院で研究する道もある、ということも大きかったと思います。
大学では、<専門分野>と言われる実際に看護を行ううえで必要な知識や技術を学ぶ科目において、同級生とお互いに納得のいくまでグループワークに取り組み、看護の意義深さ、楽しさを認識しつつ、大変密度の濃い時間を過ごしました。
さらに、忘れられないのが臨地実習です。様々な患者さんに出会いましたが、その中でも、肝がんの手術を受けられた患者さんとの関わりについて、ご紹介します。
初めてお会いした日は、手術を受けたばかりで動くのもやっとの状態でした。術後は早期の離床が必要とされていますが、その方はあまり離床が進まなかったため、離床を促し、退院後の生活に関する指導をするという看護計画を立て、関わりました。
実習最終日に患者さんは無事退院されました。初めてお会いした日からずっと寝衣姿だった患者さんが、身支度を整え、ご家族に付き添われながら嬉しそうな表情で退院される姿をみて、退院する患者さんを見送る機会のある外科病棟の看護師を目指すようになりました。そして、卒業研究でも手術を受けた患者さんに対する看護をテーマに取り組み、看護研究をご指導いただいた先生方に「臨床経験を積んで、大学院に戻っていらっしゃい」と臨床現場に送り出していただきました。
そして、この患者さんと、もう一度お会いすることになります。それは看護師2年目の頃でした。その患者さんが入院して来られました。また再会できたことは嬉しかったのですが、患者さんの病状は進行しており、その後お看取りとなりました。看護師として、何ができたのだろうか、もっと何かできることはなかったのだろうか、という思いが残りました。
がんと診断された患者さんに対しては、5年相対生存率というものがあります1)。その当時の肝がんの5年生存率は、4割を下回っていました2,3)。看護師として肝がんの患者さんに関わっていると、亡くなっていく患者さんも決して少なくありません。目の前にいる患者さんたちの5年相対生存率を実感するにつれ、看護として何ができるのだろうか、と考えることが増えるようになっていきました。(もちろん、それ以上に、患者さんが快方に向かい、退院されていく姿を見送るという喜びがあるのですが。)
そんなとき、看護研究でお世話になった先生が病棟に来られていて、「そろそろ(大学院)どう?」と声をかけていただき、一度病棟を離れ、大学院に進学することを決意しました。大学院進学後は、看護学についてより深く学びながら、まずは臨床で感じていた疑問や無力感について言語化することに取り組みました。研究テーマを立て、じっくり時間をかけて患者さんに深くお話を伺うという手法で研究に取り組み、臨床では気が付いていなかった患者さん自身の経験と治療への向き合い方について明らかにしました。
そして、研究もひと段落ついた頃、大学院の研究室の先輩にお声がけいただき、看護基礎教育に携わることになり、現在に至ります。大学院で取り組んだ研究だけでは、臨床で感じていた疑問や無力感の完全な解決には至っていません。そのため、少しでもその解決に近づけるよう、現在も研究に取り組んでいます。
現在の私の原動力になっているのは、これまでの患者さんたちとの出会いであり、患者さんと真剣に向き合う看護の奥深さ、さらにはその奥深さを追究する研究というアプローチがあるということです。
進路選択を迫られている高校生の皆さんも、ぜひ、自身の進路について悩み抜いてください。
そのうえで、私の経験が、看護学の魅力、研究の魅力をお伝えするものになり、皆さんの選択の一助になれば幸いです。