セルフケアのための時間を大切にしています。特に家族との旅行は一番のごほうびです。
大阪大学医学部保健学科を卒業後、一般財団法人信貴山病院ハートランドしぎさんで勤務。専門看護師を目指し、聖路加看護大学(現:聖路加国際大学)大学院へ進学し、2009年精神看護専門看護師資格を取得。病棟・外来・訪問看護部門で専門看護師活動を行いながら品質管理、医療安全、新人教育などを経験。2023年より現職。精神科領域における高度看護実践や看護師のメンタルヘルス、地域における精神保健看護活動に関心を持っています。
2023年の4月、私は22年勤務した病院を離れ、看護基礎教育の世界に飛び込みました。病院では、患者さんやご家族の抱える難しい問題について一緒に悩んだり、患者さんの希望を叶えるためにスタッフとともに知恵を出し合ったりするなど、精神看護の「沼」にどっぷりとハマってきました。そんな日々を過ごす中で、精神科医療を取り巻く地域の問題など、社会的な課題に関心を持つようになりました。また、院内教育に携わっていたことから、基礎教育にも興味を持つようになりました。そんなタイミングでチャンスをいただいたことから「これは運命にちがいない!」と感じ、いくつかの不安を抱えながらも大学教員という道に挑むことにしたのです。
その不安のひとつが、臨床での活動との両立に関することでした。専門看護師である私にとって、臨床家であり続けることはとても重要なことでした。しかし、大学教員の仕事はとても忙しいと聞いていたので、これまで何度かお誘いをいただいていたものの、お断りしてきたのです。ただ、今では臨床活動を行っている先生方も増えてきています。そこで、専門看護師資格を持ち、臨床活動を行っておられる大学教員の先輩方に両立の方法を教えていただきました。さらに、同じ研究室の先生方もご理解くださり、様々なサポートをしてくださっています。おかげで、無事に臨床活動を維持することができていますし、今では教育研究活動を充実させるために不可欠なものとなっています。
もう一つの不安は、研究にかかわることです。学生時代、指導教官からきめ細やかなご指導をいただいたおかげで、いつか本格的に研究活動を行ってみたいと思っていました。しかし、臨床では忙しさを言い訳に後回しにしてしまい…。現在は、博士後期課程への進学に向けて準備を進めているほか、他の先生方との共同研究にも参加させていただくなどして、日々研鑽を積んでいます。いつか、学生の研究を指導できるようになった際には、恩師と同じように、研究の魅力を伝えられるようになりたいです。
さらに、精神疾患は、数字や画像などの客観的なデータで表しづらく、その症状や生活するうえでの困りごとについて伝えるのが難しいです。学生も、精神疾患をお持ちの患者さんの様子や、精神科における看護師の役割がイメージしにくいと言います。授業や演習では、患者さんの言葉や行動を実際に演じ、アセスメントやかかわり方についてディスカッションを行うなどの工夫をしていますが、課題はまだまだありそうです。また、臨地実習では、臨床とは異なる、教員の立場での指導の難しさも実感しています。学生一人ひとりの課題を把握しながら、実習目標に到達できるようどのように導いていくとよいか、毎日のように悩み、考えながら指導を行っています。
このように不安や課題は山積ですが、私が楽しく働き続けていられるのには、精神科臨床で身につけた「関係性の構築」のスキルが役立っていると思います。学生との信頼関係なしには、こちらの思いが伝わりませんし、行動も変わりません。学生の思いに耳を傾け、何を大切にしているのか、どんなことを難しく感じているのか、理解しようと試みる根気強さは、臨床で患者さんに鍛えていただいた賜物だと思っています。
また、本学は看護学部と教育学部だけの小規模大学であるため、ほとんどすべての教職員が顔の見える関係です。そのため、困ったことやわからないことは領域関係なく先生方に尋ねることができますし、新任教員のためのメンター制度もあるため、非常に心強く感じています。このような安心感があるからこそ、仕事に全力を尽くすことができるのかもしれません。
長く精神看護の世界にはおりますが、教員としてはスタート地点にたったばかりです。臨床と研究の両面から精神看護の魅力を分かち合えるよう、学生とともに元気いっぱい成長していきたいと思います。