聖路加看護大学卒、医療科学研究所研究員等を経て、現職。
研究テーマのキーワードは、ヘルスリテラシー、ヘルスコミュニケーション、当事者の語り、ナラティブ。
全国に多くいる看護系教員がコラムを書くというコーナーで、第1号の原稿を書けることを光栄に思います。今日は、私が取り組んでいる研究活動に関して、ご紹介させて頂きます。それは、5~6歳の未就学児に体のことを伝える活動です。
これを読んでくださっている皆さんは、自分の体のことをどのくらいご存知でしょうか?看護系教員の方は、大部分が看護職なので、それは分かっていると思われるかもしれません。では、これから看護職を目指すために看護系大学を探しているという高校生の方はどうでしょうか?自分の体のことを、どのくらい知っていますか?
日本では、保健医療職などでなければ、体のことを知らないまま大人になってしまうことが当たり前。それは、義務教育課程で体を学ぶ機会が限られているからです。昨今は、保健医療に市民や患者が主体的に関わることが求められる時代ですが、自分の体のことを知らないまま大人になり、ある日何かの病気になっても、本来の体の仕組みを知らなければ、主体的に医療にかかわることは難しいというのは、容易に想像できます。そんな問題意識を持って、2003年ごろ聖路加看護大学(聖路加国際大学)で文科省の助成金を得て始まったのが、5~6歳児に体のことを伝える研究活動です。5~6歳児が対象だった理由は、5~6歳児は自分の体に興味津々で素直に学ぶことができること、5~6歳児はこの年齢なりの理解力があるためです1)。
この活動の柱は3本あります。1つ目は、5~6歳児が体のことを学べる教材の開発です。これまでに、絵本や紙芝居、体のことをイメージできるような臓器Tシャツを開発してきました。絵本の評価では5歳児向けで分かり易いという反応の一方、大人でも知らないことが多い状況でした2)。また2つ目の活動はこれらの教材を使ったお話会で、メンバーが保育園や地域図書館へ出向いて行って、「体のお話会」を行うことです。プログラムはおよそ45分間で、手遊びなどの導入に引き続き、紙芝居を使ったお話と、臓器Tシャツを使った遊びを入れています。実際にお話会に参加した子どもには、知識が増えたり行動が変わるという変化が見られました3)。さらに活動の3つ目として、子どもに体のことを伝えられる人を増やしたいという思いから、大人向けに「からだせんせい研修会」を定期的に開催しています。これは、保育士や幼稚園教諭、子どもの保護者、図書館司書など、より子どもに身近な人に、子どもへ体の話をしてもらうための研修です。
また、この活動は、市民と一緒に行う参加型研究(アクション・リサーチ)であるため、メンバーが保健医療職だけではなく、非常に多様です。その多様なメンバーがお互いの特性を生かしてフラットに話をしたり、他の団体ともつながり易いように、2014年にNPO法人を設立しました。
本来体は自分自身のことなので、保健医療職に聞かなくても、体の基本的な知識は誰もがみんな持っていて良いものです。実際世界を見渡すと、子どもに系統的に体の知識を教えるカリキュラムが組まれている国も存在します4)。またこの情報化時代では、ヘルスリテラシーが非常に重要ですが、その中核は体の知識です。体の知識が、保健医療職のものではなく、みんなのものになることを目指して、これからもこの研究活動を続けていきたいと思っています。
活動の様子はホームページでも公開しています。
https://karada-kenkyu.jimdo.com/